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森健一の「創造力を磨く7か条」

■第1回■
コンセプトは3行で書く

【2006.08.23】

写真 ある新商品の開発が成功するか失敗するかを分ける最も重要なポイントがある。
成功した新商品の開発を調べると、そこに共通することは、コンセプトの明快さである。何か新しいことを始めるときは、まずコンセプト開発を徹底することが大切な作業となる。これが結果の成否をきめる最も重要な鍵となる。しかも、とても楽しい作業である。

コンセプト創造はまず「WHAT」(なに)を考えることであって、「HOW」(いかにして)ではない。これを間違えると、コンセプトはアイディアの集積にしかならない可能性がある。
たとえば、1970年代のはじめ日本語のタイプライター(ワープロ)の開発をはじめたときも、徹底して考えたのは商品のコンセプト開発だった。
そのためには、日本語ワープロを作ることが社会的に意味があるのかを調べることからはじめた。リサーチである。利用者が欲しがっているものは何か。
手始めに新聞社の人に聞いた。
新聞記者は事件が起きると現場に取材に行く。写真を撮り、記事を書いてそれを電話で送る。電話口で誰かが受け取って、原稿用紙に書き直し、デスクがそれを読み、採用となったら文選工が活字を拾う。
この工程を、記者が書いて、電子的に送って、デスクが読むだけにならないか。さらに雑誌社や官庁にも聞きに行った。官庁では住民票などをコンピュータ処理するために漢字入力を必要としていた。
明らかに、日本語のタイプライターをみなが欲しがっている。
その確信のもとに、チームで「われわれが目指す」将来の日本語ワープロに必要なコンセプトを考えた。
それが以下の3条件だ。

第1に、手書きよりも速く文章のつくれるものであること(かな漢字入力)
第2に、英文タイプライターのようにぶら下げてどこにでも持って行けるものであること(ポータブル)
第3に、作った文書ファイルにどこからでもアクセスできなければいけない(通信機能)

 この3つを実現しなければいけない。しかも、この順序で実現しなければいけない。ここまで絞り込むのにじっくり時間をかけた。1971年にそう考えて、7年後に最初の「手で書くよりも速い」日本語ワープロが誕生した。そして、さらに7年後にポータブル化ができた。その7年後に通信機能を持ったものができなければならなかったのだが、当初のアイディアはFAX通信を想定していた。したがってパソコン通信、インターネットの時代を待たなければならなかった。

 このコンセプト開発で注目してもらいたいことがある。これらのコンセプトはすべて「動詞」で書かれていることだ。アイディアを動詞で表現しコンセプトを作り上げている。新しいものをつくり出すということは、新しい機能をつくり出すことである。新しい機能を表現するには「・・・ができる」といった動詞表現が必要になる。
 これに対して、性能を表現するには「・・・より速い」といった形容詞で表現する。形容詞は、性能の改善には有効であるが、まだ世の中にないものをつくろうとするときにはあまり意味がない。性能というのは、機能の程度を表すものだからである。

 工学の世界は、理学の世界と違って社会に役立つものをつくらなければならない。役立つとはどういうものか、それを遠くにポンと置いて、それから分からないハウツーを考えて頭を悩ますのである。

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■森健一 プロフィール
森健一さんは東芝で「郵便番号読み取り機」や「日本語ワープロ」の発明、「ノートパソコン」「DVD」から「冷蔵庫」の開発までを手がけた商品開発の第一人者。
現在、東京理科大学で社会人を対象にMOTを教え、科学技術振興機構研究主監、宇宙航空研究開発機構技術顧問などを務める。

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