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森健一の「創造力を磨く7か条」

■第5回■
鳩が豆食ってパッ

【2006.09.19】


写真 前号でも書いたが、技術予測というのは、将来の技術を予測することではなく、夢を予測することだ。「未来の顧客」に向かって求められるアイディアをブラッシュアップすることが第一で、そのあと技術的な実現性の検討が始まる。

1995年、アメリカでは「マルティメディア元年」といわれ、オピニオンリーダーやアナリスト、ジャーナリストたちがこぞって「デジタル革命」を唱えていた。「テレビがデジタルになるとパソコンに近づき、テレビ産業はいずれパソコン産業に吸収されてしまうであろう」というのがもっぱらの意見だった。当時IEEE(アメリカ電気電子学会)のコンシューマエレクトロニクス・グループのチェアマンから連絡があり「東芝はテレビもパソコンもやっているが意見を聞きたい」といってきた。私は「東芝の見解は言えないが、私の独断と偏見なら話すことが出来る」としておおむね次のようなことを話した。
  1. マルティメディアとはそもそもなんだろうか。人間は昔から、声を使い、目を使い、耳を使ってフェイスtoフェイスのコミュニケーションをやってきた。人間こそがマルティメディアだと思う。
  2. マルティメディア技術とは、それを遠隔でも可能にする技術である
  3. そうだとすると、マルティメディア技術がどうなるかは、技術の問題ではなく、わたしたち使う人が何を望むかを考えることだろう。
そして、テレビは、お茶の間のなかで臨場感を味わうためにますます大型のスクリーンとなり、高精細化し、そのためには薄型にしなければ仕方ない
パソコンは、明視の距離で個人用に情報を見る機械だからA4サイズがあれば十分。95年はウインドウズ95が出てメールの時代に突入した年だったから、ファイルに個人のパソコンでアクセスできることが重要だ。
したがって、明確に目的の違う二つの道具をひとつでは兼任できないから、テレビ産業はパソコン産業に吸収されることはありません、と答えた。

すると、彼は「テレビは分かったが、パソコンはこれからどうなりますか」と聞いてきた。この答えは用意していなかったが、とっさの思いつきで言ったのが、日本のサラリーマンは朝に家を出るときちんと持ったかとチェックする「鳩が豆食ってパッ」という言葉があります、と。
「は」はハンカチ、「と」は時計、「が」はがまぐち、「ま」は万年筆、「め」は眼鏡、「く」はクシ、「て」は手帳、「ぱ」はパス(定期券)です。ハンカチと眼鏡とクシ以外はすべて情報に関係している。
「それを一緒にするものがあったらぼくは使いますね」といって
PDACT」と書いた。
「P」はペイメント、その道具で支払いできる。「DA」はデジタルアシスト電子手帳。「C」はカメラ、「T」は電話
2000年にはこれらは実現するだろう、と思っていたからそう言ったのだが「P」だけは少し予測がはずれてしまった。「お財布携帯」が出来たのが2003年。それ以外は2000年までに実現した。

技術の延長線上で未来を予測するより、このような隠れたニーズを指摘することのほうが、当たる確率はずっと高まるものだ。

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